姿勢・歩行

パーキンソン病で体が横に傾く原因は?姿勢異常(ピサ症候群)への評価と運動療法

体幹側屈の原因を見極め、ストレッチ・筋力トレーニングなど個別に介入するポイントを解説

パーキンソン病で体が横に傾く原因は?姿勢異常(ピサ症候群)への評価と運動療法

パーキンソン病では、病気の経過とともに体が前に曲がるだけでなく、「立っていると体が左右どちらかへ傾いてくる」という姿勢異常がみられることがあります。

このような体幹の側方への傾きには、筋力や柔軟性だけでなく、姿勢を認識する感覚や筋緊張、薬剤など、さまざまな要因が関係している可能性があります。

そのため、「右に傾いているから左側を鍛える」といった画一的な運動ではなく、なぜその人の身体が傾いているのかを評価し、介入方法を考えることが重要です。

この記事では、パーキンソン病専門トレーニング施設での臨床経験をもとに、体が横に傾く姿勢異常の考え方と、運動療法を組み立てる際のポイントを解説します。

パーキンソン病でみられる「横への傾き」とは?

パーキンソン病では、体幹が左右のどちらかへ傾く姿勢異常がみられることがあります。

代表的なものの一つが「Pisa syndrome(ピサ症候群)」です。

ピサ症候群は、立位や歩行時に体幹が左右どちらかへ側屈する姿勢異常です。姿勢の傾きが固定されているとは限らず、姿勢や条件によって変化することがあります。

一方で、側弯症など骨格そのものの変化を伴っている場合もあります。

そのため、「体が横に傾いている」という見た目だけで原因を判断せず、その傾きがどの程度修正可能なのかを確認することが重要です。

パーキンソン病の横への傾きは、すべて同じ原因で起こるわけではありません。まず「どのような条件で傾きが変化するのか」を評価することが運動療法を考える第一歩です。

なぜパーキンソン病では体が横に傾くのか?

パーキンソン病の体幹側屈には、複数の要因が関係していると考えられています。

例えば、

などです。

実際の症例では、これらが単独ではなく複数重なっていることもあります。

したがって運動療法では、単純に「傾いている反対側の筋肉を鍛える」「硬い側を伸ばす」と決めるのではなく、評価から介入仮説を立てる必要があります。

横への姿勢異常を評価するときのポイント

では、実際に体が横へ傾いている方をみたとき、どのような点を確認すればよいのでしょうか。

私たちが特に重要だと考えているポイントを紹介します。

横になると姿勢が変化するか

まず確認したいのが、立っているときの傾きが、横になったときにどの程度変化するかです。

立位では大きく傾いていても、臥位になると比較的まっすぐになる場合があります。

このように姿勢によって傾きが変化する場合には、筋活動や姿勢制御など、修正可能な要素が関係している可能性があります。

反対に、臥位でも大きな変形が残る場合には、筋・関節の拘縮や脊柱の構造的な変化なども考慮する必要があります。

ただし、臥位でまっすぐにならないからといって「運動療法では改善しない」と一律に判断できるわけではありません。

姿勢の修正可能性を評価する一つの材料として考えます。

左右どちらから症状が始まったか

パーキンソン病では、症状に左右差がみられることがあります。

そのため、

などを確認します。

ただし、発症側と姿勢異常との関係だけで原因を決めることはできません。

あくまで他の身体所見と合わせて評価します。

骨盤と体重の偏りを確認する

体幹だけを見るのではなく、骨盤や下肢まで含めて姿勢を確認します。

例えば、

などです。

静止した立位だけでは分からない特徴が、歩行によって明確になる場合があります。

筋力と柔軟性を確認する

体幹や股関節周囲の筋力・柔軟性についても左右差を確認します。

特に股関節外転筋群は、立位や歩行時に骨盤を安定させる役割を担っています。

例えば中臀筋の筋力が低下すると、片脚支持時に骨盤や体幹の安定性へ影響する可能性があります。

一方、傾いている姿勢が長期間続くことで、反対側の体幹や股関節周囲組織に二次的な短縮が生じている可能性もあります。

重要なのは、「硬いから傾いた」「弱いから傾いた」とすぐに結論づけないことです。

姿勢・歩行・筋力・柔軟性などを総合して考えます。

まっすぐの感覚がずれていないか

パーキンソン病の姿勢異常を考えるうえでは、「本人がまっすぐだと感じている姿勢」と「実際の垂直」が一致しているかという視点も重要です。

実際には体が傾いているにもかかわらず、本人はまっすぐ立っていると感じていることがあります。

このような場合には、単純に筋力や柔軟性だけへ介入しても、日常生活で傾いた姿勢へ戻ってしまう可能性があります。

鏡や視覚的な目印などを利用し、「実際のまっすぐ」と「自分が感じているまっすぐ」を確認することも介入方法の一つになります。

姿勢異常に対する運動療法の考え方

運動療法では、評価によって見つかった要因に応じて介入を組み合わせます。

主な方法として、

などがあります。

どれか一つを行えばよいのではなく、その方の姿勢異常に何が関係しているのかを評価したうえで選択することが重要です。

硬くなっている部位へのストレッチ

体が長期間一方向へ傾いていると、体幹や股関節周囲の一部の組織が短縮していることがあります。

その場合には、硬さが確認された部位に対してストレッチを行います。

例えば、

などがあります。

ただし、傾いている方向だけを見て「こちら側が硬いはず」と判断するのではなく、実際に可動性を評価してから行います。

弱くなっている筋肉への筋力トレーニング

筋力低下が姿勢保持に影響していると考えられる場合には、対象となる筋肉への筋力トレーニングを行います。

ここで注意したいのが「代償動作」です。

目的とする筋肉が十分に働かない場合、身体は別の筋肉や動きを使って運動を成立させようとします。

負荷を高くしすぎることで、目的とは異なる動作を繰り返してしまうことがあります。

そのため、

という条件を満たした負荷から始めることが大切です。

股関節外転筋を鍛える運動の例

ここでは、股関節外転筋の筋力低下が確認された場合の運動例を紹介します。

あくまで一例であり、体が横へ傾くすべての方に必要な運動ではありません。

運動① 横向きで股関節周囲を動かす

横向きになり、股関節周囲の筋肉を意識しながら脚を動かします。

最初は負荷を小さくし、骨盤が大きく動かない範囲から始めます。

運動② ゴムバンドを使用して脚を開く

仰向けなど安定した姿勢で、ゴムバンドの抵抗に逆らいながら脚を開きます。

骨盤や体幹が大きく動いてしまう場合には、負荷を下げます。

運動③ 立位で脚を横へ開く

立位で身体を安定させながら、一方の脚を横へ開きます。

立位になることで姿勢制御も必要になるため、難易度が上がります。

転倒リスクがある場合には、手すりなど安全な支持物を使用するか、専門職の指導下で実施してください。

「何回できたか」だけでなく、「狙った筋肉を使い、正しい姿勢でできたか」を確認することが重要です。10回でもフォームが崩れる場合には、運動の難易度を下げることを検討します。

一症例から考える運動療法

ここで、PDitで実際に対応した一症例を紹介します。

初回来所時には、立位・歩行時に右方向への明らかな体幹側屈がみられ、腰痛も認めていました。

評価では、

などが確認されました。

これらの所見から、左股関節周囲の支持機能低下と、右側の二次的な柔軟性低下などが姿勢異常に関与している可能性があると考えました。

そこで、

などを継続しました。

約半年間のトレーニング後には、立位・歩行時の体幹側屈が軽減し、腰痛や歩行にも変化がみられました。

ただし、これはあくまで一症例の経過です。

「中臀筋を鍛えればパーキンソン病の姿勢異常が改善する」ということを示すものではありません。

重要なのは、個別の評価結果から介入方法を組み立てたことです。

パーキンソン病の姿勢異常は個別評価が重要

パーキンソン病でみられる横への姿勢異常には、さまざまな要因が関係している可能性があります。

そのため、

などを確認し、その人に合わせて運動療法を組み立てることが重要です。

姿勢異常には「この運動をすれば必ず改善する」という方法があるわけではありません。

一方で、変化に早く気づき、修正可能な要因を評価して適切な運動につなげることで、姿勢や動作の改善につながる可能性があります。

体の傾きが出てきた場合には、自己判断で筋力トレーニングやストレッチを続けるだけではなく、主治医への相談とあわせて、パーキンソン病の運動療法に詳しい理学療法士・作業療法士などに評価してもらうことをおすすめします。

小川 順也
この記事の執筆者
小川 順也
株式会社Smile Space 代表取締役 / 理学療法士 / LSVT BIG 認定資格者
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