日常生活

パーキンソン病で椅子から立ち上がりにくいとき|原因と安全な動作の工夫

椅子・足の位置・身体の動きから、自分に合う方法を考える

パーキンソン病で椅子から立ち上がりにくいとき|原因と安全な動作の工夫

椅子から立ちにくい原因は、筋力だけとは限りません。研究を手がかりに身体と椅子の条件を整理し、安全な動作の工夫と、自分に合う練習を相談するための準備を紹介します。

こんにちは。PDit(ピディット)の小川順也です。

「椅子から立とうとしても、お尻が上がらない」「何度かやり直すうちに、立つのが不安になる」。そんな困りごとはありませんか。

立ち上がりにくさは、脚の筋力だけでは説明できません。身体の動かし方に加えて、椅子の高さや足の位置なども関わります。まずは、どの場面で難しくなるかを整理し、自分に合う方法を見つけることが大切です。[1,2]

この記事では、立ち上がりの研究と、安全に動くための確認ポイントを紹介します。勢いや回数を増やす前に、一緒に考えてみましょう。

1. 立ち上がりにくい原因は、一つとは限りません

椅子から立つときは、座って支えていた身体を足の上へ移し、脚などで支えながら起こします。身体を前へ移す動きと、上へ起こす動きがつながる必要があります。[2]

パーキンソン病では、こわばりや動作の遅さなどによって、この一連の動きが難しくなることがあります。[1] さらに、脚で支える力、関節の動かしやすさ、バランス、痛みなども一緒に考えます。[2,4]

身体だけでなく、「どの椅子から立つか」も大切な条件です。低くて柔らかいソファと、座面が沈みにくい肘掛け付きの椅子では、動きやすさが違います。[1]

「自宅のソファでは難しいけれど、食卓の椅子なら立ちやすい」といった違いは、相談するときの手がかりになります。これは伝え方の例であり、実際の患者さんの体験談ではありません。

2. 「もっと深くお辞儀すればよい」とは言い切れません

身体を前へ移すことは立ち上がりの一部ですが、前へ曲げる量だけで判断しないことが重要です。

Inksterらは、軽度のパーキンソン病がある男性10名と、同年代の男性10名を対象に、腕を使わずに椅子から立つ動きを測定しました。パーキンソン病の方は、薬の効いている状態と切れた状態で調べられています。[2]

研究者の予想に反し、パーキンソン病の群では、立つ準備の股関節の曲がりや身体の重心の前方移動が、比較対象より大きくなっていました。薬の効果が切れた状態では、立ち上がりにかかる時間も長くなっていました。[2]

つまり、立ちにくい方が全員「前へ移せていない」わけではありません。 すでに大きく前へ動かして、脚の力や安定性を補っている可能性も考えられます。

これは少人数・男性のみの動作分析で、前へ曲げる練習の効果を試した研究ではありません。ここから一律の角度や「正しい形」を決めず、動きのどこで困るのかを見ていく必要があります。

3. 安全に立つために、準備から動作までを分けて確認する

次の図は、理学療法士などと立ち上がりを確認するときの整理です。痛みやふらつきがある方、立つのに人の手が必要な方は、一人で練習せず、支え方や環境から相談してください。[5,6]

立ち上がりを確認する4つの段階。安定した椅子と足元を用意し、座る位置と足を整え、無理のない範囲で身体を前へ移し、脚と必要に応じて肘掛けを使って立つ。立った後の安定も確かめ、痛みやふらつきがあれば一人で繰り返さず相談する。

図:文献[1,5,6]を参考にPDitが作成した確認用の概念図。個人に共通する運動処方や、研究の効果量を示す図ではありません。

椅子と足元を整える

安定した椅子を使い、足裏が床につくか、座面が深く沈みすぎないかを確認します。肘掛けを使うことも選択肢です。椅子の高さや補助具が合っているか迷う場合は、理学療法士・作業療法士に相談しましょう。[1,6]

座る位置・足・身体の動きをつなげる

お尻を座面の前方へ移し、両足を床につけて椅子に近づけます。無理のない範囲で身体を前へ移し、脚と、必要に応じて肘掛けを押す手で身体を支えて立ちます。[1,6]

「深く曲げるほどよい」「足を強く引くほどよい」と考える必要はありません。痛み、関節の動く範囲、立った後の安定まで含めて、自分に合う位置を確認します。

ご家族も、腕を引っ張って立たせようとする前に、本人ができる部分と必要な支えを専門職に確認してください。手助けの方法を整えることは、支える方の身体を守ることにもつながります。[6]

4. 筋力づくりに加えて、「立つ動作そのもの」を練習する意味

音と目印を使った練習の研究

Makらのランダム化比較試験では、パーキンソン病の方を、音と視覚の手がかりを使って立ち上がりを練習する群、従来の運動をする群、介入しない群に分けました。52名が研究を完了しています。[3]

4週間の練習後、手がかりを使った群では、立ち上がりにかかる時間や身体を動かす速さが改善し、従来の運動群を上回る変化が報告されました。改善は練習終了2週間後にもみられました。[3]

ただし、これは特定の方法による短期間の研究です。長期的な転倒予防や病気の進行抑制を証明したものではなく、家庭で声をかけるだけで同じ結果になるとも限りません。

「自分が困る動作」を練習の目標にする

米国理学療法士協会(APTA)のガイドラインも、改善したい動作を具体的に練習する「課題特異的トレーニング」を推奨しています。一方、最適な練習量は確定しておらず、重症の方や認知機能の低下がある方を含まない研究も多くあります。[4]

ここから実生活で大切になるのは、筋力をつける運動と、生活で必要な動作の練習を、状態に合わせて組み合わせることです。「食卓の椅子から立ちたい」「トイレで安心して立ち座りしたい」など、具体的な目標を伝えてください。

この記事では、全員に同じ回数・速さを勧めません。回数だけを目標にせず、支えの必要性、動きやすさ、疲れや痛みも確かめながら、専門職と練習方法を決めましょう。[4]

5. 「立てない」と「立つとふらつく」を分けて相談する

立ち上がるときのめまい・目の前が暗くなる感じは、動作の問題だけでなく、立つことで血圧が下がる「起立性低血圧」に関係する場合があります。[5]

この場合、速く立つ練習を増やすことが解決になるとは限りません。急に動かず、ふらついたら安全な場所に座り、症状を主治医に伝えてください。薬の量や飲む時間は自分で変えないでください。[5]

困る場面 相談するときに伝えたいこと
お尻が上がりにくい 椅子の種類、足の位置、肘掛けの有無。身体を前へ動かせるか、痛みがあるか。
立とうとして座り戻る どの段階で戻るか、どんな支えがあれば動けるか。無理に再現する必要はありません。
立つとめまい・ふらつきがある 起こる時間帯、服薬や食事との関係、転びそうになったことの有無。主治医へ相談する材料にします。
特定の時間・場所で難しい 朝、食後、ソファ、トイレなど、困る場面を一つ具体的に伝えます。

表は文献[1,2,5,6]に基づく相談内容の整理です。原因を自己診断するための表ではありません。

6. 今日の一歩は、「困る椅子」を一つ伝えることから

診断されたばかりでも、日常の動きに気になることがあれば相談できます。何度も失敗してから、あるいは一人では立てなくなってから、と待つ必要はありません。

まずは、「どの椅子で、いつ、何が難しいか」を一つメモしてみてください。立ち上がる回数を急に増やすより、自分に合う条件を探す出発点になります。

PDitのスタジオやオンライントレーニングを検討されている方は、下記からサービス内容をご覧ください。立ち座りの困りごと、痛みやふらつき、普段どのような支えを使っているかを伝えていただけると、相談が具体的になります。

PDitのスタジオ・オンライントレーニングを見て、相談する

紹介した研究は、PDitの特定のメニューの効果を保証するものではありません。自分の身体と生活に合う取り組みを選ぶために、お役立てください。

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参考文献

  1. NHS Fife. Chairs for Parkinsonism(椅子の選び方と立ち座りの資料). 参照日:2026年9月30日。
  2. Inkster LM, Eng JJ. Postural control during a sit-to-stand task in individuals with mild Parkinson's disease. Exp Brain Res. 2004;154(1):33–38. doi:10.1007/s00221-003-1629-8.
  3. Mak MKY, Hui-Chan CWY. Cued task-specific training is better than exercise in improving sit-to-stand in patients with Parkinson's disease: a randomized controlled trial. Mov Disord. 2008;23(4):501–509. doi:10.1002/mds.21509.
  4. Osborne JA, et al. Physical Therapist Management of Parkinson Disease: A Clinical Practice Guideline From the American Physical Therapy Association. Phys Ther. 2022;102(4):pzab302. doi:10.1093/ptj/pzab302.
  5. Parkinson's Foundation. Low Blood Pressure and PD. 参照日:2026年9月30日。
  6. Parkinson's UK. How to safely provide assistance. 参照日:2026年9月30日。
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小川 順也
この記事の執筆者
小川 順也
株式会社Smile Space 代表取締役 / 理学療法士 / LSVT BIG 認定資格者
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