リハビリ

パーキンソン病で「動けているつもり」と実際が違うのはなぜ?感覚と運動の確かめ方

自分の感じ方と実際の動きを、一緒に確かめるために

パーキンソン病で「動けているつもり」と実際が違うのはなぜ?感覚と運動の確かめ方

自分では動かしているつもりでも、動画や周囲の見方と違うことがあります。身体の位置感覚と症状の自己評価を分けて研究を読み、本人の感じ方を大切にしながら、安全に動きを確かめる方法を紹介します。

こんにちは。PDit(ピディット)の小川順也です。

「自分では腕を振っているのに、動画ではあまり動いていない」「まっすぐ立っているつもりなのに、家族から姿勢を指摘された」。そんなふうに、自分の感じ方と、外から見た動きが違って戸惑うことがあるかもしれません。

パーキンソン病では、身体の位置を感じることや、自分の症状を評価することに違いがみられる研究があります。ただし、誰にでも同じようなずれが起きるわけではありません。 感じ方の違いを、努力や注意が足りないせいにする必要もありません。[1,2]

大切なのは、自分の感覚を否定することではなく、実際の動きと合わせて確かめることです。この記事では、研究で分かっていることを整理し、自分に合う練習を相談するためのヒントを紹介します。

1. 「感覚のずれ」とは?分けて考えたい3つのこと

身体を動かすときには、目で見る情報だけでなく、筋肉や関節などから届く情報も使っています。目を閉じても、腕がどのあたりにあるかを感じられるのは、その一例です。このように身体の位置や動きを感じる働きを、固有感覚と呼びます。

一方、「自分の動きが小さくなっているか」「症状がどのくらいあるか」を判断することは、身体の位置を感じることと同じではありません。自分の動きに注意を向けたり、見たり、振り返ったりして評価する側面もあります。

さらに、床の目印や音に合わせて動くことは、練習のための「外からの手掛かり」です。動いた後に動画や他者の説明で確かめることは、結果を知るための「フィードバック」に当たります。

つまり、身体の位置感覚、自分の症状の評価、練習の手掛かりは、関連していても別の話です。「感覚が変わるから、自分の動きには必ず気づけなくなる」と、ひとつの原因で説明することはできません。

2. 研究から分かることと、まだ言い切れないこと

腕の位置を合わせる小規模な実験

Rabinらは、パーキンソン病の方9人と、年齢を合わせた対照群9人を対象に、目を閉じて片腕の位置に反対の腕を合わせる課題を調べました。パーキンソン病の方は服薬から12時間たった条件で評価されています。[1]

パーキンソン病群では位置を合わせる誤差が大きかった一方、指先で触れる手掛かりを加えると誤差が小さくなりました。位置を感じ取る課題で違いがあっても、ほかの感覚の情報を使う力が一律に失われるわけではない、と考える手掛かりになります。

ただし、少人数で、腕の位置合わせという特定の課題を調べた研究です。日常の歩行や筋肉の使い方すべてを説明したものではなく、家庭でのトレーニングや長期的な効果を確かめた研究でもありません。研究の条件をまねて、自己判断で薬を抜く必要はありません。

本人の評価と、専門家の評価を比べた研究

Maierらは、パーキンソン病の方104人を服薬ONの状態で調べ、課題を行った本人の評価と、その録画を見た専門家の評価を比較しました。専門家は本人の回答を知らない状態で評価しています。[2]

症状によって、本人と専門家の評価が一致しない場合があることが示されました。ただし、認知症やうつのない方を対象とした評価尺度の研究であり、診断直後の方全員の状態を表すものではありません。動画を見れば症状が改善する、という効果を調べた研究でもありません。

これらの研究から、「本人の感覚は当てにならない」と考えるのは行き過ぎです。本人にしか分からない動かしにくさと、外から観察できる動きを持ち寄ることに意味があります。

「筋肉を使っている感覚」は、相談の手掛かり

以前のPDitブログでは、「筋肉を使っている感覚」に着目する考え方を紹介しました。この感覚を言葉にしてもらうことは、運動を相談する際の一つの手掛かりになります。

ただし、それだけで「正しい筋肉が使えている」「感覚のずれが不調の原因だ」と判断できるわけではありません。また、その感覚を整えれば病気の進行を抑えられる、ということも、ここで紹介した研究からは言えません。痛み、力の出しやすさ、姿勢、動作などと合わせて確認する必要があります。

3. 動画・目印・声掛けは、どんなときに役立つ?

米国理学療法士協会(APTA)のガイドラインは、音や目印、言葉などの外部の手掛かりを、運動症状や歩行の改善に用いることを推奨しています。[3]

例えば、目印を見ながら足を運ぶ練習と、終わってから動画で足の運び方を確かめることは、役割が違います。前者は動くときの手掛かり、後者は動きを振り返る材料です。

どんな手掛かりが合うか、どのくらい使うかは、人や課題によって異なります。「もっと大きく」「もっと速く」と言い続けることを、全員の正解にしないことが大切です。 動きの大きさだけでなく、痛み、ふらつき、疲れ方、実際の生活での使いやすさも確かめます。

なお、このガイドラインは、スマートフォンで自分の動画を見るだけで改善することや、病気の進行を抑えること、PDit独自のメニューの効果を保証するものではありません。

4. 自分の動きを確かめる、相談までの3ステップ

次の流れは、専門職に相談するときの整理の仕方です。研究で検証された一律の運動メニューではありません。

感じる・確かめる・相談する。気になる動きを一つ選び、安全な条件で確認し、専門職と調整する流れ。

図:自分の感じ方と、観察できる動きを相談につなげるための整理図(PDit作成)。

① 気になる動きを、一つ選ぶ

「歩くときに片方の腕が動かしにくい」「椅子から立つときに力が入りにくい」など、生活で気になる場面を一つ選びます。全身を一度に直そうとしなくて大丈夫です。

自分ではどう感じるか、どんなときに困るかを、短い言葉で残しておきましょう。困っていない動作や、以前より楽にできるようになったことも大切な情報です。

② 安全な条件で、外からも確かめる

動画は、普段の動きを専門職と共有する方法の一つです。撮る場合は、通路の物を片づけ、スマートフォンを安全な場所に固定するか、協力者に撮ってもらいます。画面を見たり、端末を操作したりしながら歩かず、撮影後に落ち着いて見返してください。

転倒しやすい、立ちくらみがある、支えが必要な場合は、確認のために一人で危険な動作を試さず、専門職がいる場で行いましょう。動画がなくても、困る場面をメモして相談できます。

③ 感じたことと見えたことを、専門職に伝える

動画の見た目だけで自己採点せず、主治医やパーキンソン病のリハビリに詳しい理学療法士に相談します。比べるときは、服薬からの時間、疲れ方、撮影した場所など、条件の違いも伝えましょう。

確かめること 相談するときに伝える例
自分の感じ方 「腕を動かしているつもりですが、右側は動かしにくく感じます」
外から見えたこと 「動画では左より右の腕の動きが小さく見えました」
そのときの条件 「服薬からこのくらいの時間で、少し疲れていました」
安全性・生活への影響 「痛みはありませんが、振り向くとふらつきます」「玄関まで楽に歩けました」

上の言葉は相談のための例文です。実際の患者さんの体験談ではありません。

5. ご家族は「違いの指摘」より、一緒に確かめる役割を

ご家族から見える変化と、ご本人が感じる動かしにくさは、どちらも大切です。一方で、何度も姿勢や動きを指摘されると、運動がつらく感じられることもあるでしょう。

声を掛けるときは、まず「一緒に見てみる?」と本人の意向を確かめ、今日見るポイントを一つに絞ってみてください。

例えば「もっと腕を振って」だけでなく、「自分ではどう感じた? 動画も一緒に見て、次の相談で聞いてみよう」と伝える方法があります。これは声掛けの提案であり、特定の言葉による治療効果を示すものではありません。

できていない点だけでなく、楽にできた動きや、続けられていることも一緒に確認しましょう。 運動を続けてきた価値が、動画で一つ違いを見つけたことでなくなるわけではありません。

6. 「正しくできているか不安」なら、今の動きから相談しよう

診断されたばかりで、「何から始めればよいか」「この動かし方でよいか」と迷っている方も、まずは今の身体と生活を知るところから始められます。

目標は、画面の中で完璧な動きをすることではありません。買い物に行く、家の中を移動する、好きな活動を続ける。そのために必要な動きを、自分に合う方法で練習することです。

PDitでは、スタジオやオンラインで運動を相談できます。「どの場面が困るか」「自分ではどう感じるか」を伝え、必要な評価や安全な練習方法を一緒に考えていきましょう。対面・オンラインのどちらが合うかも、身体の状態や必要な支援に合わせてご相談ください。

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参考文献

  1. Rabin E, Muratori L, Svokos K, Gordon A. Tactile/proprioceptive integration during arm localization is intact in individuals with Parkinson’s disease. Neuroscience Letters. 2010;470(1):38–42. 原著の掲載情報・抄録
  2. Maier F, Ellereit AL, Eggers C, et al. Development and psychometric evaluation of a scale to measure impaired self-awareness of hyper- and hypokinetic movements in Parkinson’s disease. Journal of the International Neuropsychological Society. 2015;21(3):221–230. 原著の掲載情報・抄録
  3. Osborne JA, et al. Physical Therapist Management of Parkinson Disease: A Clinical Practice Guideline From the American Physical Therapy Association. Physical Therapy. 2022;102(4):pzab302. ガイドライン本文
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小川 順也
この記事の執筆者
小川 順也
株式会社Smile Space 代表取締役 / 理学療法士 / LSVT BIG 認定資格者
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