リハビリ

パーキンソン病の進行を抑えたい方へ|研究から考える運動習慣と生活の整え方

自分に合う運動を、続けられる毎日へ

パーキンソン病の進行を抑えたい方へ|研究から考える運動習慣と生活の整え方

大切にしたいのは、自分に合った運動を習慣として続けること。運動による症状・身体機能への効果と、病気そのものの進行抑制は区別しながら、研究と現場の経験をもとに、日常生活に取り入れたい6つのポイントを紹介します。

こんにちは。 PDit(ピディット)の小川順也です。

「パーキンソン病の進行を少しでも遅らせたい」 「今の歩き方や生活を、できるだけ長く保ちたい」

そう考えたとき、毎日の生活で何を大切にすればよいのでしょうか。

今回の朝礼で、私が一番お伝えしたかったのは、

「自分に合った運動を、習慣として続けること」

です。

そして、これまで多くのパーキンソン病の方と関わる中で、運動を続けるためには、身体の状態だけでなく、人とのつながりや楽しみ、生活上の負担にも目を向けることが大切だと感じています。

今回は、研究で示されていることと、私たちが現場で感じていることを分けながら、日常生活に取り入れたいポイントをご紹介します。

最初に知ってほしいこと|「症状を改善すること」と「病気そのものの進行を止めること」は違います

運動によって歩行やバランスなどの身体機能が改善すること、運動を続けている方では一部の機能低下が緩やかだったことは、研究で報告されています。

ただし、それはそのまま「運動をすれば、神経細胞の減少を確実に止められる」という意味ではありません。今回紹介する研究も、身体機能や症状への効果・関連を示すもので、病気そのものへの長期的な進行抑制効果については、さらに検証が必要です。

だからこそ、私は「進行しないように、もっと頑張らなければ」と追い込むのではなく、今の生活をより良くするために、できることを積み重ねるという考え方を大切にしたいと思っています。

① 最も大切にしたいのは「運動を習慣にすること」

「運動した方がいいのは分かっているけれど、なかなか続かない」

そんな声をよく聞きます。

私も日々のトレーニングを通して、一度だけ頑張ることよりも、生活の中に運動する時間があることの大切さを感じています。

研究でも注目されているのは「継続した活動」

2022年に発表された研究では、早期パーキンソン病の方237名を、中央値で5年間追跡したデータが解析されました。

その結果、観察期間を通して身体活動量が高かった方ほど、姿勢・歩行の安定性、日常生活動作などの低下が緩やかでした。一方、研究開始時点の活動量だけでは、その後の経過との明確な関連は見られませんでした。

この結果から私が受け取るメッセージは、

「以前どれだけ運動していたか」だけでなく、「これからも続けられるか」を大切にしたい。

ということです。

ただし、これは生活の様子を追った観察研究です。運動によって良い状態を保てた可能性と、良い状態だったから運動を続けやすかった可能性を、完全に切り分けることはできません。

自宅での有酸素運動を調べた研究もあります

2019年の「Park-in-Shape」という研究では、軽症のパーキンソン病の方130名が、自宅での固定式自転車による有酸素運動、またはストレッチを行うグループに分かれました。

運動は週3回、1回30〜45分、6か月間。遠隔でのサポートも行われました。

その結果、有酸素運動のグループでは、研究の決められた条件で評価した運動症状の悪化が、ストレッチのグループより小さくなっていました。ただし、この研究も、運動による神経変性の抑制まで証明したものではありません。

「自宅でも、適切な方法とサポートがあれば、運動に取り組む意味がある」

これは、オンラインで運動を届けている私たちにとっても、大切な研究です。

まずは「週3日・1回30分程度」を目標に

朝礼では、運動習慣をつくる一つの目安として、週3日以上・1回30分程度を紹介しました。

ただし、これは「この回数なら必ず進行を抑えられる」「週90分で十分」という境界線ではありません。

Parkinson’s Foundationと米国スポーツ医学会の運動推奨では、パーキンソン病の方に対して、週150分の中等度〜高強度の運動が目安として示されています。個々の状態に合わせた専門家の評価も勧められています。

最初からその時間を達成することが難しい方もいると思います。

そんな方には、私はまず、短い時間でも「運動する日」をつくってほしいと思っています。体調や疲労の残り方を確認しながら、少しずつ時間や頻度を調整していきましょう。

② 有酸素運動は「時間」だけでなく「強度」も考える

「毎日30分散歩をしています」

これは、とても大切な習慣です。

そのうえで、PDitではもう一つ、

「どのくらいの負荷で身体を動かしていますか?」

ということも確認しています。

米国理学療法士協会の診療ガイドラインでは、中等度〜高強度の有酸素運動が、心肺機能や運動症状、身体機能の改善を目的として推奨されています。

ただし、「ゆっくり歩いても意味がない」という話ではありません。まず続けられている活動を大切にし、その人の状態に応じて、少し負荷を調整していくという考え方です。

例えば、安全に歩ける方なら、歩幅やテンポを少し意識する。歩行中の転倒が心配な方なら、専門家と相談して固定式自転車など別の方法を考える。

同じ運動を、全員が同じ速さで行う必要はありません。

一般的な中等度の運動強度の目安には、「会話はできるけれど、歌うのは難しい」という息の弾み方があります。汗の量だけではなく、呼吸や疲労感にも目を向けてみましょう。

「少し負荷をかける」と「無理をする」は別です。転倒リスクや持病も踏まえ、主治医や理学療法士と相談しながら、自分に合った強度を見つけることが大切です。

③ 筋力と柔軟性は、運動を続けるための土台

有酸素運動が大切だからといって、それだけを行えばよいわけではありません。

診療ガイドラインでは、有酸素運動に加えて、筋力トレーニングやバランス練習も推奨されています。柔軟性運動は、関節の動く範囲を保つ・広げる目的で勧められていますが、研究上の根拠の強さは運動の種類や評価する効果によって異なります。

PDitで身体を見させていただくと、

「歩こうとしても、身体がひねりにくい」 「お腹やお尻を使っているつもりでも、別の場所に力が入っている」 「左右で動きの大きさが違う」

といった様子が見られることがあります。

そのため私たちは、まず左右差や動き方、本人が感じている動きと実際の動きの違いを確認しています。そのうえで、必要なストレッチや筋力トレーニングを選び、有酸素運動へつなげることを大切にしています。

身体の状態を知る → 必要な土台をつくる → 続けられる運動につなげる。

これは、PDitが現場で重視している進め方です。特定の筋肉を鍛えれば病気の進行を抑えられる、と証明された手順ではありません。

また、左右差が完全になくなるまで、有酸素運動を待つ必要もありません。個別の状態に応じて、安全にできる有酸素運動と身体づくりを並行して進めます。

大切なのは、「できていないところを直すまで運動できない」ではなく、「今できる運動を続けながら、必要な部分を整えていく」ことだと考えています。

④ 孤独にならず「困ったら話せる場所」を持つ

ここからは、研究に加えて、私が多くの方と関わる中で感じていることをお伝えします。

比較的活動的な生活を続けている方には、何らかの「居場所」があることが多い印象があります。

仕事、趣味、友人、家族。あるいは、相談できる専門職や、安心して参加できるコミュニティです。

「来週、あの人に会う予定がある」 「困ったら、ここで話せる」

そんなつながりを大切にしている方を、私はたくさん見てきました。

研究では何が分かっているのでしょうか?

パーキンソン病の方1,527名を対象とした研究では、孤独を感じていることと、本人が報告する症状の重さや生活の質の低さとの関連が示されました。

ただし、これは一時点のデータを分析した研究です。孤独が症状を重くするのか、症状が重いために孤独になりやすいのか、その両方なのかは判断できません。「友達を増やせば進行が遅くなる」と証明されたわけではないのです。

だから私は、「たくさん友達をつくりましょう」とは言いません。

一人で過ごす時間が好きな方もいますし、無理に病気を周囲へ伝える必要もありません。

それでも、困ったときに話せる相手や場所を、いくつか持っておいてほしいと思っています。

PD Cafeやオンライングループトレーニングも、そんな“ゆるいつながり”を持てる場所にしていきたいと考えています。

⑤ 「病気を進めないため」だけでなく、「やりたいことのため」に運動する

私は、運動の目的についても大切にしています。

「進行しないように運動しなきゃ」

その気持ちは、もちろん自然なものです。

でも、それだけだと運動が義務になってしまうこともあるのではないでしょうか。

「家族と旅行に行きたい」 「ピアノを続けたい」 「好きなアーティストのコンサートへ行きたい」 「孫と一緒に出かけたい」

そんな話を聞くと、私は、

「そのために、どんな身体づくりが必要だろう?」

と一緒に考えたくなります。

「楽しい」は、運動を続けるうえでも大切

パーキンソン病の方30名と運動指導者13名へのインタビューなどを行った研究では、運動への参加を支える要素として、楽しさ、グループで取り組む環境、パーキンソン病に対応できる指導者などが挙げられました。

これは、「推し活や趣味が神経変性を抑える」と証明した研究ではありません。

ただ、運動を続けるために、楽しさや本人に合った環境を考えることの大切さを示しています。

私が現場で感じている「やりたいことがある方は運動にも取り組みやすい」という印象も、こうした継続の工夫として捉えたいと思っています。

大きな目標でなくても構いません。

「近所のお店へ買い物に行きたい」 「友人とのお茶の時間を楽しみたい」

その人にとって大切なことを、運動の理由にしていきましょう。

⑥ 過度なストレスを、一人で抱え続けない

仕事の忙しさ、家族の介護、子育て、将来への不安。

私も現場で、こうした負担が重なった時期に、「震えが強い」「いつもより動きにくい」と話される方に出会います。

パーキンソン病の方5,000名を対象とした調査でも、多くの方が、ストレスによって振戦などの運動症状や、運動以外の症状が悪化すると回答していました。ただし、これは主に本人の回答に基づく調査で、ストレスが神経細胞の減少を速めることまで示したものではありません。

ですから、

「ストレスを感じてしまったから、病気が進んだ」

と自分を責める必要はありません。

私がお伝えしたいのは、ストレスをゼロにすることではなく、過度な負担を抱え続けないための方法を、一緒に考えたいということです。

家族に頼む。仕事量を相談する。介護サービスや地域の支援を利用する。主治医や身近な専門職に、気持ちのつらさも伝える。

「全部、自分で解決しなければいけない」と思わなくて大丈夫です。

運動することだけでなく、休むことや助けを求めることも、大切にしてほしいと思います。

研究と経験をつなぐと、見えてくるのは「続けられる暮らし」

今回ご紹介した内容は、すべて同じ強さの根拠があるわけではありません。

運動については、身体機能や症状への効果を調べた比較試験があり、継続的な活動と長期的な経過の関連を示す研究もあります。一方、人とのつながりや楽しみについては、主に症状・生活の質との関連や、運動参加を支える要素としての研究が中心です。

そのうえで、私はこれらを別々の話ではなく、一つの暮らしとして考えたいと思っています。

人に会う楽しみがあるから、出かけたい。

出かけたいから、運動を続けたい。

一緒に取り組む仲間がいるから、また参加しようと思える。

困ったときに相談できるから、一人で抱え込まずに済む。

運動習慣を支えるのは、本人の気合いだけではなく、続けられる生活や環境なのではないか。

これが、今回の朝礼を通してお伝えしたかったことです。

最後に|進行への不安を、今日できることへ

今回のポイントを、日常の言葉でまとめると、

運動する。身体を整える。人とつながる。楽しみを持つ。ストレスを抱え込みすぎない。

ということです。

もちろん、全部を一度に整える必要はありません。

そして、運動が続けられない日があることも、前向きになれない日があることも、責められることではありません。症状が進んだことを、本人の努力不足や性格のせいにしないでほしいと思っています。

薬物療法を含む主治医の治療を大切にしながら、今の自分に合った運動や過ごし方を考える。

「病気を進めないために、何を我慢しよう」だけではなく、

「自分らしく過ごすために、今日何ができるだろう?」

と考えてみる。

私たちPDitは、その一歩を一緒に考える存在でありたいと思っています。

運動をする場所だけでなく、相談できる人がいて、仲間とつながれて、自分に必要な情報に出会える場所へ。

「診断日から安心して運動を始められる社会」を目指して、これからも研究と現場の両方から、皆さんの暮らしを支えていきます。

焦らず、一人で抱え込まず。 できることから、一緒に積み重ねていきましょう。

PDit 小川順也

参考文献

1.継続的な身体活動と長期的な経過

Tsukita K, Sakamaki-Tsukita H, Takahashi R. Long-term Effect of Regular Physical Activity and Exercise Habits in Patients With Early Parkinson Disease. Neurology. 2022;98(8):e859–e871. doi:10.1212/WNL.0000000000013218

2.在宅有酸素運動のランダム化比較試験

van der Kolk NM, et al. Effectiveness of home-based and remotely supervised aerobic exercise in Parkinson’s disease: a double-blind, randomised controlled trial. Lancet Neurology. 2019;18(11):998–1008. doi:10.1016/S1474-4422(19)30285-6

3.パーキンソン病の理学療法に関する診療ガイドライン

Osborne JA, et al. Physical Therapist Management of Parkinson Disease: A Clinical Practice Guideline From the American Physical Therapy Association. Physical Therapy. 2022;102(4):pzab302. doi:10.1093/ptj/pzab302

4.孤独・社会的つながりと症状、生活の質

Subramanian I, Farahnik J, Mischley LK. Synergy of pandemics-social isolation is associated with worsened Parkinson severity and quality of life. npj Parkinson’s Disease. 2020;6:28. doi:10.1038/s41531-020-00128-9

5.運動参加を支える楽しさや環境についての質的研究

Chakraverty D, et al. “There is only one motive … fun.” Perspectives of participants and providers of physical exercise for people with Parkinson’s disease. Disability and Rehabilitation. 2024;46(23):5591–5600. doi:10.1080/09638288.2024.2310754

6.ストレスと症状に関する5,000名の調査

van der Heide A, et al. Stress and mindfulness in Parkinson’s disease—a survey in 5000 patients. npj Parkinson’s Disease. 2021;7:7. doi:10.1038/s41531-020-00152-9

運動量・強度の参考資料

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小川 順也
この記事の執筆者
小川 順也
株式会社Smile Space 代表取締役 / 理学療法士 / LSVT BIG 認定資格者
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