すくみ足

パーキンソン病のすくみ足と外部キュー|「線をまたぐ」だけでは不十分な理由

エビデンスから考える、本当に必要なこと

パーキンソン病のすくみ足と外部キュー|「線をまたぐ」だけでは不十分な理由

パーキンソン病のすくみ足(Freezing of Gait:FOG)の対策として「床に線を引いてまたぐ」「リズムに合わせて歩く」といった外部キューがよく紹介されます。実際に効果があることも研究で示されています。しかし、「その場で足が出た」ことと「すくみ足が改善した」ことは同じではありません。外部キューの効果と限界を最新エビデンスをもとに整理し、すくみ足のトレーニングを考えるうえで大切な視点をお伝えします。

こんにちは。PDitスタジオ銀座本店、作業療法士の属(サッカ)です。

パーキンソン病のすくみ足(Freezing of Gait:FOG)について調べると、よく紹介される対策があります。

「床に線を引いて、それをまたぐ」「1、2、1、2とリズムをつける」「メトロノームに合わせる」「目印をつくる」

これらは外部キュー(external cueing)と呼ばれ、実際にパーキンソン病の歩行を改善することが研究でも報告されています。

では、すくみ足があったら、とりあえず線をまたぐ練習をすればいいのでしょうか。実は、それほど単純ではありません。

今回は「すくみ足にはこの方法」と対策を紹介するのではなく、なぜ外部キューで歩けることがあるのか、そして"その場で歩けた"ことをどう考えるべきなのかについてお話しします。

この記事でわかること

そもそもパーキンソン病の「すくみ足(FOG)」とは?

すくみ足は、歩こうとしているにもかかわらず、一時的に足が前へ進みにくくなる現象です。

特に、歩き始め・方向転換・狭い場所・ドアを通るとき・目的地へ近づいたとき・二つのことを同時にするときなどで起こりやすいことが知られています。

特徴的なのは、いつでも同じように起こるわけではないことです。

こうした一見不思議な現象が起こります。すくみ足は、単純な「脚の筋力不足」だけでは説明できない症状なのです。

なぜ「線をまたぐ」とパーキンソン病のすくみ足が改善するのか?

パーキンソン病では、本来ならあまり意識せず行っている歩行の自動的なコントロールが難しくなると考えられています。そこで利用されるのが外部キューです。

例えば床に線を引くと、「歩く」という自動的な動作から「あの線をまたぐ」という目標が明確な動作に変わります。視覚情報や注意を利用することで、普段とは異なる方法で動作を補いやすくなるわけです。

実際、視覚的な線や聴覚的なリズムなどによって歩幅や歩行速度などが改善することは、多くの研究で報告されています。そのため、外部キューそのものが悪いわけではありません。

問題は、「線をまたいだら歩けた。その後どうするのか?」です。

「キューがあれば歩ける」と「すくみ足が改善した」は違う

ここは、トレーニングを考える上で非常に重要なポイントです。

外部キューを使って、その場で足が出た。これは大切な変化です。しかし、キューがなくても足が出るようになったとは限りません。

RESCUE trial(2007年)の知見

153名のパーキンソン病患者に自宅でのキューイングトレーニングを実施したところ、歩行・バランス・すくみ足などに小さいながら改善が認められました。

ところが、トレーニング終了後にはその効果がかなり減少しました。キューを使ったことで得られた効果が、そのまま定着するとは限らないということです。

DeFOG研究(2024年)の知見

すくみ足が起きたときに必要に応じて音によるキューを提示するシステムを使用した研究です。装置を使っているときにはすくみ足が軽減しました。

一方、4週間日常生活で使用した後でも、装置を外した状態のすくみ足そのものには明確な改善がみられませんでした。

研究者らは、このようなキューを「使用しているときに効果を発揮するもの」として捉えています。

「キューがあると歩ける」ということ自体には意味があります。ただし、それを「すくみ足そのものが改善した」と同じ意味で捉えないことが重要です。

レーザーキューを使えば解決するわけではない

外部キューを利用したものとして、レーザーで床に線を表示する杖や歩行器なども開発されています。「線をまたぐと歩けるなら、いつでも線を出せるようにすればいい」という合理的な方法に思えますが、研究結果はそれほど単純ではありません。

Kompolitiらは、薬が効いているON時にもすくみ足がみられる28名を対象に検討しました。結果として、歩行時間やすくみ足の回数に一貫した改善は認められませんでした。レーザーを搭載した歩行器を検討した別の研究でも、すくみ足を有意に減少させる効果は確認されませんでした。

大切なのは、「視覚キューだから効く」ではなく、「誰に、どのような状況で、何を目的として使うのか」という視点です。

視覚への依存について考えておきたいこと

パーキンソン病では、歩行や姿勢の調整に視覚情報を利用する傾向が強くなることが報告されています。特にすくみ足のある方を対象とした視線計測研究では、歩行中に進行方向よりも自分の近くの床を見る割合が多いことが報告されています。

「床を見ると歩ける」ことには、きちんと理由がある可能性があります。

ただし、「では、もっと床を見ながら歩く練習をしよう」と単純に進めることには慎重である必要があります。視覚情報は、歩行を助けることもあれば、逆に歩行を乱すこともあります。ドアなどの視覚環境そのものがすくみ足を誘発することもあるからです。

外部キューを「良い」「悪い」の二択で考えるのではなく、その人がどの感覚情報を使って歩いているのかまで考えることが重要です。

すくみ足の「対策」より先に確認すべきこと

すくみ足があると「どうすれば足が出ますか?」という対策に目が向きやすくなります。しかし、その前に確認したいことがあります。

どこで、どのように止まるのか

何を加えると変化するのか

そして、その変化は、キューをなくしても残るのか。

ここまで見て初めて、その人にとって何が必要なのかを考えやすくなります。

外部キューは「補助」か「トレーニング」か

外部キューによって、その場ですくみ足から抜け出せる方もいます。日常生活の中で安全に移動するために、継続してキューを利用することが有効な場合もあります。

大切なのは、「補助として使うこと」と「トレーニングによって歩行そのものを変えていくこと」を混同しないことです。

眼鏡をかけて見えるようになることに意味があるのと同じように、補助を使うこと自体が悪いわけではありません。一方でトレーニングとして行うのであれば、キューがなくなったとき・違う環境へ移ったときはどうなるのかまで見ていく必要があります。

実際、パーキンソン病の歩行練習では、同じ環境だけで練習するよりも異なる環境で練習することで、新しい状況への転移が促される可能性もRCTで報告されています。

まとめ|「すくみ足には線をまたぐ」の、その先へ

パーキンソン病のすくみ足に対して、床の線などの外部キューが有効な場合があります。しかし、「すくみ足がある→線を引く→歩けた→これを続ければいい」と単純に考える必要はありません。

これらは、それぞれ違います。

PDitでは、「何をすればできたか」だけではなく、「なぜできたのか」を考えることを大切にしています。

すくみ足への外部キューは、答えではなく選択肢の一つです。自分のすくみ足がどんな状況で起こり、何によって変化し、その変化がどこまで続くのか。そこを丁寧に確認しながら、その人に合った方法を考えていくことが大切だと思います。

参考文献

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属 崇維
この記事の執筆者
属 崇維
作業療法士 / LSVT-BIG 認定療法士 / PDit® 認定トレーナー / パーキンソン病療養指導士
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