「歩き出そうとしても足が出ない」「方向転換すると足が止まる」——すくみ足(FOG)は単純な足の問題ではなく、歩行の自動性・認知・感覚・情動が複雑に絡み合う現象です。2025年にNature Reviews Neurologyに掲載されたExpert Recommendationをもとに、FOGのメカニズムと病態に基づいたアプローチを解説します。
パーキンソン病の方から、
- 「歩き出そうとしても足が出ない」
- 「方向転換すると足が止まってしまう」
- 「人混みに入ると急に歩きにくくなる」
といった悩みを聞くことがあります。
こうした症状の代表的なものが、すくみ足(Freezing of Gait:FOG)です。
すくみ足というと「足が床にくっついたように動かなくなる症状」というイメージを持つ方も多いかもしれません。しかし現在、FOGは単純な「足の問題」だけでは説明できない複雑な現象として考えられています。
2025年に Nature Reviews Neurology に掲載されたTosseramsらのExpert Recommendationでは、FOGの病態生理を踏まえ、メカニズムに基づいて治療・リハビリテーションを考える枠組みが提案されています。
今回はこの論文を中心に、すくみ足(FOG)の定義・発生メカニズム・評価・治療の考え方について解説します。

すくみ足(FOG)とは?
FOGについて広く使われてきた定義は、2010年の国際ワークショップで合意され、Nuttらによって2011年に報告されたものです。
歩こうとする意図があるにもかかわらず、足の前方への進行が、短時間・エピソード的に消失または著しく減少する現象
重要なのは、「一時的・エピソード的に起こる」という点です。常に歩けないわけではありません。普段は比較的スムーズに歩けていても、ある特定の状況になると突然足が出にくくなることがあります。
そのためFOGを理解するには、「歩ける・歩けない」という二択ではなく、どのような条件で歩行が破綻するのかを見る必要があります。
なお、FOGの定義については2025年にInternational Freezing of Gait Society(ICFOG)から更新案も公表されています。FOG研究そのものが現在も発展していることには注意が必要です。
すくみ足は、どんなときに起こりやすい?

FOGは特に、
- 歩き始め
- 方向転換
- 狭い場所の通過
- 目的地に近づいたとき
- 複雑な環境での歩行
などで現れやすいことが知られています。
例えば、まっすぐな廊下では問題なく歩ける方でも、「ドアを通ろうとすると足が止まる」「方向転換すると細かいステップになる」「人とすれ違おうとすると歩けなくなる」といったことがあります。
なぜ、このような違いが生まれるのでしょうか。そのヒントの一つが、歩行の「自動性」です。
私たちは普段、「歩き方」を考えていない
普段歩くとき、「右足を前に出そう」「次は左足を出そう」などと一歩ずつ考えている人はほとんどいないでしょう。歩行は、脳内の複数のネットワークによって高度に調整されながら、その多くが自動化されています。
ところがパーキンソン病では、ドーパミン神経系の変化などに伴い、基底核を含む自動的な運動を支えるネットワークがうまく機能しにくくなります。
Tosseramsらは、こうした歩行の自動性の低下をFOGの病態を理解する重要な要素として整理しています。
これまで無意識にできていた「歩く」という行為そのものに、より多くの意識や注意が必要になる
自動的に歩けなくなったら、脳はどうする?

ここで重要になるのが、代償という考え方です。自動的な歩行を支える仕組みが十分に機能しなくなっても、脳は別のネットワークを利用して歩行を補おうとします。
- 歩くことに意識を向ける
- 床の線などの視覚情報を利用する
- リズムなどの聴覚情報を利用する
- 一歩ずつ意識して歩く
- 歩き方そのものを工夫する
Tosseramsらは、FOGへの非薬物的介入を考えるうえで、こうした代償ネットワークにおける情報処理を促進することを重要な治療戦略の一つに位置づけています。
「補って歩く」にも限界がある
自動的な歩行が難しくなっても、注意や感覚などを利用することで歩行を補える場合があります。しかし、歩行中に処理しなければならない情報が増えたらどうでしょうか。
例えば、人混みを歩く場面では、歩くだけでなく「前から人が来ている」「どちらに避けるか」「足元に障害物はないか」といった情報を同時に処理する必要があります。さらに方向転換、狭い場所、会話などの二重課題、不安や緊張といった要素が重なることもあります。
Tosseramsらは、FOGの病態には運動系だけでなく、認知・感覚・情動に関係するシステムと代償ネットワークとの相互作用が関係すると整理しています。
歩行の自動性が低下 → 別のネットワークで補う → 環境・課題による処理負荷が増大 → 代償が機能しにくくなる → FOGが起こりやすくなる
ただし、これは「負荷が一定量を超えたら必ずFOGが起こる」という単純なモデルではありません。FOGの病態は複雑であり、現在も完全には解明されていません。
だから「すくみ足があるか」だけでは不十分

ここまで考えると、FOGを評価するときに重要なことが見えてきます。単に「すくみ足がありますか?」だけを確認するのでは不十分です。
重要なのは、
- いつ起こる? 歩き始めか、方向転換か、目的地に近づいたときか
- どこで起こる? 自宅か、狭い場所か、人混みか、屋外か
- 何をしているときに起こる? 会話中か、急いでいるときか、緊張しているときか
つまり、「FOGがあるか」だけでなく、「FOGが起こる状況」を捉える視点が大切です。
診察室やリハビリテーション室ではFOGがほとんど見られない方でも、日常生活では強く困っている可能性があります。
すくみ足には、どうアプローチする?
Tosseramsらは、FOGの病態生理に基づいて2つの相補的な治療フローを提案しています。

① 病態そのものへのアプローチ
大脳基底核からの過剰な抑制性出力を軽減する方向です。
- ドーパミン作動性治療の最適化
- 深部脳刺激療法(DBS)
- 持続的な薬剤投与を含むadvanced therapies
どの治療が適しているかはFOGのタイプや薬剤反応性などによって異なり、医師による専門的な評価が必要です。
② 代償ネットワークを活かすアプローチ
脳に残されている代償機能を利用して歩行を補う方向です。
- 視覚・聴覚などの外部キュー
- 注意の向け方の工夫
- 歩行戦略
- 方向転換の工夫
- 環境調整
Tosseramsらの提案では、こうした非薬物的介入によって代償ネットワークにおける情報処理を促進することが第2の治療フローとして位置づけられています。
「すくみ足には○○」と一律に考えない
同じ「FOG」という症状でも、方向転換で困っている方と人混みで困っている方では、背景にある負荷や必要となる対策が異なる可能性があります。また、薬が効いている時間と効いていない時間でFOGが変化する方もいます。
その人のFOGにはどのような特徴があるのか、そしてどのような状況でFOGが誘発されているのか——を丁寧に評価したうえで、薬物療法・運動リハビリ・歩行戦略・環境調整を組み合わせて考えることが重要です。
まとめ|すくみ足を「足だけ」の問題として見ない
すくみ足(FOG)は、歩こうとしているにもかかわらず、効果的に前へ進むことが一時的に難しくなる複雑な現象です。その背景には、歩行の自動性・認知・感覚・情動・環境など、さまざまな要素が関係しています。
「FOGがあるか?」だけを見るのではなく、「いつ・どこで・何をしているときに起こるのか?」まで考えることが、その人に合った支援を検討する第一歩になります。
参考文献
Tosserams A, Fasano A, Gilat M, et al. Management of freezing of gait — mechanism-based practical recommendations. Nature Reviews Neurology*. 2025;21(6):327–344. Nutt JG, Bloem BR, Giladi N, Hallett M, Horak FB, Nieuwboer A. Freezing of gait: moving forward on a mysterious clinical phenomenon. Lancet Neurology*. 2011;10(8):734–744.
